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古賀信明氏インタビュー  
特殊効果・特殊撮影の映像制作会社
古賀信明さんが代表取締役を務める(株)スペシャルエフエックス スタジオは、知る人ぞ知るスペシャルエフェクトを得意とする映像プロダクションだ。参加・担当した作品には、「新世紀エヴァンゲリオン」「白痴」「スパイゾルゲ」「アヴァロン」「蟲師」「スターウォーズエピソードII」などのアニメ映画、実写映画のほか、「世界最大の恐竜博2002」愛知万博展示映像「NEDO」などのイベント映像、そしてNTT東日本「ガッチャマン」、第一生命「堂々人生ファミリー篇」、ほのぼのレイク「レイク号」シリーズ、日本コカコーラ「ジョージア」シリーズなどのテレビCMなどがある。いずれもクォリティの高い映像作品として、皆さんの記憶に残るものも多いのではないだろうか。
そのクオリティの高さは古賀さんの人柄、性格に寄るところが大きい。なにしろ、まだアナログ的な仕事をしていた時代には、ないものは作ってしまえとばかりに、特殊メイクで死体を作ったり、リアルな機械仕掛け(アニマトロニクス)で動く恐竜を作ったり、モーションコントロール装置を手作りしたり…。それもそのはず、大学卒業後は撮影助手をし、アナログのマットペインターや特殊メイクアップアーティストもしていたという。アナログのローテクな経験は人一倍だ。そのアナログ的な感覚へのこだわりがあるからこそ、どれだけ自然に見えるか、という視覚効果へのこだわりも強い。

吉祥寺の広々とした一軒家の2階が(株)スペシャルエフエックス スタジオの作業場。
ここから、さまざまな映像作品が生まれている。
 
アナログに寄り添った道具、それがペンタブレット
そのスペシャルエフエックス スタジオでは、古賀さんはじめ、数人のクリエイターたちが、Adobe PhotoshopやAfter Effectsなどを自在に操る。それらのアプリケーションや機能に合わせて使い分けるのが、マウスとタブレットの2つのポインティングデバイスだ。古賀さんたちクリエイターの机には、ワコムのペンタブレット、入力エリアがA4サイズのIntuos3(PTZ-930)が置かれていて、巧みにペンで描画したり操作したりする姿が、なんとも職人のようで頼もしい。
古賀さんがペンタブレットに出会ったのは、1992年登場のMacintosh Quadra 950につないだワコムのタブレットだというから、すでに10年以上も前になる。「タブレットにはすぐに飛びつきましたね。使ってみて人間生理に近いデバイスだとすぐに認識しました。使ってみてその認識はさらに深まりました。筆圧機能などは限りなくアナログに寄り添った道具であると同時に、デジタルならではのメリット、たとえばアンドゥができる事や途中のバージョンをいくつも保存できる等とかを併せ持った道具であると、私は解釈しています」。
 
デジタルマットで活躍するIntuos3
実際、タブレット(現在はIntuos3を使用)がなければ、仕事にならないと古賀さんは言う。では、特殊撮影・特殊効果の映像編集においてIntuos3はどのように役立っているのだろうか。
 「よく使うのはやはりPhotoshopによるデジタルマットの作業をするときですね。デジタルマットは、アナログの作業も含めてマットペイントといいますが、実写と作画したものや写真などの映像との合成のことです。たとえば、日本で撮った外国のセット撮影の周りの背景をマットペイントで拡張してスケールの大きな海外ロケに見せたり、曇り空を晴れにするなど演出家が望む天候にしたりできます。最近ではかなり頻繁に行われるのが「ばれ消し」などと呼ばれる、実写では表現上違和感がある部分や不足する部分を、Photoshopでレタッチする作業です。雲とか霧などをゼロから描き足したりして完成度を上げることもよくあります。そんなときはIntuos3がなければ、質の高い映像にすることができません。Photoshopなど、ペイント系のソフトや機能には理想的なツールだなと思いますね」。
 「もちろんPhotoshopのマスク作成にも使います。マスクなんかも、実写の映像だと、自動選択ツールや色域指定コマンドでは、対処しきれないことも多く、コントラストの高いチャンネルを選び出して、覆い焼きと焼き込みツールで明暗差をつけてマスクを作成しますよ」。
 「また、とある映画なんですが、映像をつないでみた結果、どうも光の向きに違和感があって、キーライト(主となる光源)の位置を逆にしたこともあります。当初の背景の影を全部マスクしてレベル調整で持ち上げ、曇天のようなフラットな状態にし、次にキーライトの位置にあわせてハイライトと影を描き込んだりしましたね。これもPhotoshopで作業しました。そのような作業のときは、Intuos3がなかったらできないでしょうね。ほかには、3Dのオブジェクトを描画するZBrushでモデルを押したり、引いたり削ったり、またテクスチャを描いたりなどに使います」。

粘土のように3Dモデルを変形したり、テクスチャを編集できるZBushは古賀さんのお気に入りのアプリケーションの1つ。これにもIntuos3は欠かせない。
 
映像制作においては「夢のような時代」
ところで、「ないものは作ってしまう」とまで言ってアナログの技術で腕を鳴らした古賀さんが、デジタルへシフトしてきたのは、世の趨勢もあったが、アナログでは実現や表現が難しいことが、デジタルではいとも簡単にできるからだという。「デジタルの各種ツールが使える現在は、夢のような時代」と古賀さん。
 「アナログでは、マットペイントを仕上げるために、テスト撮影>現像>プリントして確認するなど、気の遠くなるような作業を繰り返していました。ところが、PhotoshopとAfter Effectsを使えば、なじみなんかは一発でわかりますし、写真を撮ってくれば、絵を描けない人でもマットペイントを仕上げることができます。実際、ILMの創立当時のメンバーのミニチュアデパートメントにいたポール・ヒューストンという人は、センスはあってもリアルな絵は描けない人なんですが、自分で撮影した写真にPhotoshopとAfter Effectsを手にしてマットペイントを始めたそうです。ツールが潜在的なセンスを助けてくれる、そういう時代なんだなと思いますね」。
古賀さんの中では、アナログは回帰するものではなく、表現の指標としてあるようだ。そしてデジタルは、効率よくアナログ的な表現に近づけるもの、そういっていいだろう。ペン先は指先の延長であるし、そして筆圧の強弱も関知する、そんな鋭敏な感覚を伝えるIntuos3は、古賀さんとスタッフには欠かせないツールとなっている。
 
Intuos3が生み出す映像の楽しみ
インタビュー中、実際にタブレットを使った操作をデモンストレーションしていただいた。驚いたのは、わずか10分ほどの間に、見事な「稲妻」と「雲」を描きあげてしまったこと。もともとのこの映像は、ジョージアのテレビCM用のものだが、稲妻を新たに描き加えてもらったものだ。
After Effectsには「フィルムストリップ」という書き出し機能があり、タイムスタンプの付いた縦長のフィルムのコマ状の画像が書き出される。それをPhotoshopで開き、ウィンドウの大きさと位置を調整すれば、スクロールバーをプレスすることで、ムービーを再現できる。
そこで、まずレイヤーを追加して1コマずつ稲妻や雲を描いて、明るさや動き具合を確認する。完成したところで、稲妻と雲のレイヤーを黒バックの別ファイルに保存し、After Effects上で元のムービーと重ねればできあがりだ。「この手法は、Photoshopの主要設計者の一人でもあるトーマス・ノールの兄、ジョン・ノールが考案したもの」だそうだ。ただ、長いコマになるのと、フィルムストリップが複数列になってしまうので、この作業は出来なくなるという。そうならない限界を自分の環境で見つけることが重要だという。他に似たような方法としてAfter EffectsからTiledPictで書き出す方法もある。
もっともこだわりは、それだけではない。1コマずつ稲妻の明るさを変えたり、ぼかしを入れたりして、よりリアルな稲妻のムービーになる。このような手法を採ることで、「かなりコントローラブルな稲妻のアニメーションができる」のだという。その説明中も、Intuos3のペンを片手に、ブラシの設定を変えていきながら、雲を描いたかと思えば、稲妻を自在に走らせる(描いていく)。ただ、闇雲に描いただけでは、こうリアルな稲妻にはならないだろう。「それはもう、実際の稲妻や、webサイトにあがっている稲妻の写真やムービーを見まくりましたから」とは言うが、Intuos3で描いていく稲妻の向き、折れ方、長さはまさにリアル。「ないものは作ってしまう」という精神が発揮され、それをIntuos3がサポートしているのだ。

それにしても、古賀さんはとても器用な方だと、取材陣一同感心した次第。そして、そのIntuos3のペン先から生まれた作品も、近々公開とのこと。これからは古賀さんのように、「映画を純粋に楽しむだけでなく、どうやって撮っているんだろう?」と、その裏側を探りながら鑑賞してみるのも、映画の楽しみ方の一つになりそうだ。

After Effectsから「フィルムストリップ」で書き出した画像に合わせ、Photoshopで稲妻や雲を描く古賀さん。
ブラシツールの設定を変えながら、10分足らずでリアルな雲や雷が描かれる。まさに職人技。
 
wacom special tipsへ After Effectsの「フィルムストリップ」という書き出し機能を使い、ムービーを1コマづつ書き出したものを下絵にしてPhotoshopで手書きのアニメーションを作成するという、独特なTIPSを公開!
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