Column
Photoshop world Reportage
     
  Motohiko Odani [Death roll in the air]  
vol.1 [Public Art]
 
       

【5 月某日/初回打ち合わせ:小谷氏アトリエ近所のドトールにて】

小谷氏:「何をしようかなぁと、考えていたんですけど…。最近、パブリックアートなんかはどうかなぁと思って。パブリックを盛り上げたいなぁ、とか考えてるんです。実現可能かどうかは、わからないんですけれどね。パブリックアートを作る場合って、だいたいそのイメージを前段階で作っていくんです。今回考えているのは、ひとつは、刃渡りが3階建てくらいのチェーンソーです。いわゆるモンスターチェーンソー」

PW:「モンスターチェーンソー…。刃渡りが3階建てのチェーンソーを、いつかは立体の作品にしたいということですか?」

小谷氏:「何年後か…そうですね。いつか、立体の作品にしたいですけどねぇ。」

PW:「チェーンソーですか。巨大でチェーンソーというと、なんとなくやはり映画の世界を連想しますね」

小谷氏:「どこかで一回はパブリックアートをやりたいんですよね。でかいところにあるパブリックアートって、だいたい面白くないじゃないですか。だからもっと面白くって、具体的なもので」

PW:「実際にその巨大なチェーンソーを作った場合は、現実にも動かしたりもできたり…?」

小谷氏:「動かすっていうのも、ありです。エンジンとか調べてみてたりしたんですよ。現実的に動くか動かないか。形状的に面白いなぁと思うんですけどね。動かしてもよいし、質感なんかは超合金でもよいし、ブロンズでもよい」

PW:「ブロンズ…実際、彫刻とか制作されるときってどれくらい時間をかけてされるものなんですか?
例えば、木彫とか」

小谷氏:「木にもよります。木もね、合う合わないがあるんですよ。木目が固いとかね。よく使われるのが楠(クスノキ)かなぁ。僕が使っていていいのは、やっぱりヒノキとか」

PW:「ヒノキって、高いんじゃないんですか?」

小谷氏:「そうですね、ヒノキはやっぱり楠(クスノキ)の10倍くらいするんですよ。堅さとか、値段とか、いろいろあるんで、一概に何が一番いいって言えないんです。今回はイメージとして、やっぱり金属かなぁ…」


気さくな物言いをしながらも小谷氏の思考は会話中も激しく回転しており、そして中核は何層ものヴェールに包まれていて、言葉で探ろうとしても結局その先は見えなかった。

デジタルのクリエティブを基本とする Photoshop world からの創作の提案に、若き現代アート作家は一体どのような発想をするのだろうかと思っていたところ、その答えは「パブリックアート」だった。「パブリックアート(Public Art)」という言葉は、1960 年代にアメリカで生まれた言葉である。「公共芸術」という訳語通りに銅像やモニュメントなどの野外彫刻、つまり美術館ではない場所に設置される芸術作品と解釈するものであろうが、その概念はいまだ確立されていない。
最近開発の激しい東京都内でも良くパブリックアートを見かけるが、おおむね周りの環境との調和を含みつつ、誰もが安心できるメッセージ性のものが多い。その中で、小谷氏は真っ向から挑戦的なテーマをかかげてきた。面白くて具体的なもの。誰もが見上げる巨大な動くチェーンソー。それを一体、どんな空間に立たせようというのだろうか。

数日後、彼の作業の進行を取材すると、そこにはまさにデジタルの世界で模倣されたパブリックアートが成立しつつあった。
   

夕陽の光を浴び、広大でありながら殺伐とした空虚とも言える不毛な地平線を縦に切り裂くチェーンソー。小谷氏曰く、背景に使っているのは中国の砂漠の大地だという。思っていたよりも、その巨大なオブジェクトが存在する世界は静かで、大きさが示す威圧感はなく、むしろ直線を描く物体の輪郭が神々しくもあり、その本来の性質を物悲しいまでに昇華する印象を受けた。
神はディテールに宿る、と小谷氏は言いながら、レンズフレアの角度とチェンソーのアングルとメカの細部に何時間もこだわり続けた。そのうち、どうしても夕陽が納得いかないということで、急遽、彼自身が夕陽の撮影を行うことになった。

to be continued.
 
 


 

 
小谷元彦
 
小谷元彦:
1972年京都府生まれ。97年東京芸術大学大学院美術研究科修了。
同年、東京・Pハウスにて初個展「ファントム・リム」開催。
99年にイタリアのサンドレッド財団でフューチャープラン賞を受賞。
00年リヨン・ピエンナーレ、01年イスタンブール・ビエンナーレなど国際展に次々と出展。
03年ヴェネツィア・ビエンナーレに日本代表アーティストとして参加。

>>http://yamamotogendai.org/japanese/artist/odani.html



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