【7月某日/鶯谷にて】
「いつかは戻ろうとは思ってたんですけど、これまでそれをあんまりやりたくなかった理由としては、単純に、彫刻の世界に発展性がなかったからじゃないですかね(笑)。 |
ここ数年、彫刻の世界を客観的な所から見ることができたんですけど、やっぱり進化してないなと。どんな分野でもそうなんですけど、やっぱり重ねていかないと前には行かないし、彫刻ってある時からずっと止まってる感じがするんですよね。しかも止まっているのが良しとされている感じもちょっとあって---------そういう恐竜的なおもしろさがあってもいいと思うんですけど、それだけではこの世界って深まっていかないんじゃないかって」
「ただそれって逆に言うと、ここまで分野として半分“死に体”みたいな分野って、実はいちばん可能性があるんじゃないかって思ったんですよ。これから切り開いていける可能性が逆にあるんじゃないかっていう。だから、もっと彫刻という価値観を広げたりとかね---------」 |
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10年くらいたったら、次は頑固ジジイにでもなってやろうと思てますけどね(笑)
実際、個展「New Bone」で発表された作品群は、いわゆる彫刻という概念を大きく超えた、圧倒的な“形態”と“素材感”を持ったものだった。では、これを皮切りに、今後、立体作品を発表し続けるという小谷氏の彫刻プロジェクト構想とは? |
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「今回はあくまでも序章ですよ。僕の考え方をこのひとつのシリーズだけで伝えることなんて不可能に近いですから、それをちゃんと系統立てて、もちろん昔にあったいい部分も取り戻していかないとだめですし、逆にあたらしく積み重ねていくものも必要だし、それに対して全体像を作ってはじめてひとつになるだろうなあと思ってはいるんで、長い道程の最初ですよね。マラソンランナーでいうたらようやくスタート地点からちょっとトラックに出たくらいやと思うんですよね。まだ外にも出てないんじゃないかなっていう」
「だからひとつのシリーズの全体を完結させるために、少なくとも10年がかりくらいでやっていこうかなって。『スターウォーズ』でいうたら、9部作を同時進行でやっていくようなもんですよ(笑)。それでいつか終わらせようみたいな(笑)」
「けどまあ、10年くらいたったときに全体像が見えるところまでいったらいいなあと思ってますけどね。そこまで行ったら、また違う考え方持った人が次に出てくるでしょうし、なので10年くらいたったら、次は頑固ジジイにでもなってやろうと思てますけどね(笑)」 |
身体と直結している感覚を表現できる“未体験のゾーン”が
まだまだあるんではないか
「いろんなことが重なってるんでしょうけど、もしかしたら小さいときに買ってもらった怪獣のオモチャが原因だったかもしれないし。今まで平面で見てたものが3次元になって出てくる、その手応えとか、リアル感とか、存在感とか。あとはやっぱり僕が小さい頃に京都に住んでたんで、ああいう荘厳な空間に鎮座している仏像を見たりして、ちっちゃいながらもああいう世界に身体的に触れるような感覚があって、それが原因のひとつになってると思うんですけど」
「だからむしろ彫刻って、絵画とかに比べて、(鑑賞者に)もっと直接的にダイレクトに関われる身体的な分野だと思うんですよ。たとえば、魚の小骨がのどに刺さったときに、その痛みをどういうふうにうまく伝えていいのかわからない感じと似たような、身体と直結している感覚を表現できる“未体験のゾーン”がまだまだあるんではないかって思っていて。それが彫刻をリスタートさせる最大の理由じゃないですかね」 |
彫刻という分野があるならば、その内側からも外側からも、
徹底して拳銃を撃ち込んでやろう
いま、荒れ野と化した彫刻の世界に、ひとり楔(くさび)を打ち込もうと立ちはだかろうとする小谷氏に、僕はある種の小気味よさ、潔さを感じてしまう。そう話すと小谷氏は「いや、潔くはないですよ。実際ぐずぐずぐずぐずしながらここまで来ましたからね(笑)」と自嘲気味に語るのだが、その視線はどこまでも真っ直ぐに彫刻の世界を見据えている。これから始まる10年がかりの彫刻プロジェクト、その展開に期待感は高まる。 |
「まあ、やっぱり、何だかんだ言っても(彫刻が)好きなんでしょうね。とにかくいまの僕の目標は、彫刻という分野があるならば、その内側からも外側からも、両方から徹底して拳銃を撃ち込んでやろうと思ってるんですね。ある方向からだけ一定的に狙うわけじゃないですから。そういうつもりでやり始めたんじゃなくて、これはあらゆる方向から攻められるなっていうのが分かったんで、それでやり始めたことですから」
「先の長いプロジェクトですけど、とにかく投げ出さないようにと思ってます(笑)」 |
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