小谷氏は 「Death roll in the air」での夕陽の撮影に、茨城県取手市を選んだ。小谷氏が教鞭をとる東京芸術大学取手キャンパスがあり、付近の風景を熟知しているからだろう。キャンパスの建物の屋上からの夕陽と、遮るものが何もない広い野原の夕陽と、候補は二つあったようだが、小谷氏は後者を選んだ。
以前、荒野の撮影に中国のウイグル地区の砂漠地帯へ出かけた事もあるという小谷氏。一度目はカメラマンを伴ったそうだが、二度目は単独の撮影を強行したという。その時に見た広大な景色が今回の「Death
roll in the air」の世界観には重要な役割をしているのだろう。この野原の夕暮れは、まるで遠い異国の大地のような雰囲気を醸し出していた。
撮り終えた夕陽の素材は、ものの見事に「Death roll in
the air」の世界観を奥行きのあるものに昇華させていた。(画面手前がテストのもの、画面奥が今回の夕陽の素材を合成したものである)
しかし、小谷氏はまだ最後の一点だけ決めかねて
いることがあった。チェーンソーのそびえ立つ大地の荒涼さを象徴するもの。無限に広がる空に押さえつけられる人間の大地を、何かチェーンソーと比較するものを置く事によって表現したい。小谷氏はそう考えているようだった。
そして、後日、「Death roll in the air」の完成版画像がPhotoshop world に届けられた。チェーンソーの台座のそばには、一つの髑髏が打ち捨てられている。
夕陽、チェンソー、髑髏。
すべてが死や終焉を象徴するものでありながら、
しかし、そこにあるのは恐怖ではなく、
静かな悲しさと凛とした美しさ。