Column
Photoshop world Reportage
     
  Motohiko Odani [Death roll in the air]  
vol.2 [Sunset]
 
       

【6月某日/ Photo shoot:茨城県取手市にて】

小谷氏は 「Death roll in the air」での夕陽の撮影に、茨城県取手市を選んだ。小谷氏が教鞭をとる東京芸術大学取手キャンパスがあり、付近の風景を熟知しているからだろう。キャンパスの建物の屋上からの夕陽と、遮るものが何もない広い野原の夕陽と、候補は二つあったようだが、小谷氏は後者を選んだ。

自ら三脚とカメラを担ぎ、ベストなポジションを探す小谷氏。夕陽を撮影するタイミングは意外にも短い。まだ陽の明るさがまぶしい内に
三脚のポジションを設定すると、何度もファインダーを覗きつつ角度を微調整する。

同行したスタッフ等とリラックスした世間話をしながらも、 その目は空を見据えたまま、 来たるべきシャッターチャンスを狙っているようだった。
 
日差しが一気にオレンジの色を増す。太陽がその装いを着替える瞬間はあっという間に訪れた。
雲が影を作り、雄大な夕暮れの景色を作り上げる。まるで急ぐかのように、陽はみるみる沈んで行く。小谷氏の脳内には、この夕暮れを背景にそびえ立つ巨大チェーンソーの世界ができあがっているに違いなかった。思い通りのショットを押さえたのでは?と思ったが、小谷氏はなおかつ違うポジションに移動し、素早く夕陽の別ショットを押さえた。

以前、荒野の撮影に中国のウイグル地区の砂漠地帯へ出かけた事もあるという小谷氏。一度目はカメラマンを伴ったそうだが、二度目は単独の撮影を強行したという。その時に見た広大な景色が今回の「Death roll in the air」の世界観には重要な役割をしているのだろう。この野原の夕暮れは、まるで遠い異国の大地のような雰囲気を醸し出していた。

撮り終えた夕陽の素材は、ものの見事に「Death roll in the air」の世界観を奥行きのあるものに昇華させていた。(画面手前がテストのもの、画面奥が今回の夕陽の素材を合成したものである)
しかし、小谷氏はまだ最後の一点だけ決めかねて
いることがあった。チェーンソーのそびえ立つ大地の荒涼さを象徴するもの。無限に広がる空に押さえつけられる人間の大地を、何かチェーンソーと比較するものを置く事によって表現したい。小谷氏はそう考えているようだった。

そして、後日、「Death roll in the air」の完成版画像がPhotoshop world に届けられた。チェーンソーの台座のそばには、一つの髑髏が打ち捨てられている。
夕陽、チェンソー、髑髏。
すべてが死や終焉を象徴するものでありながら、
しかし、そこにあるのは恐怖ではなく、
静かな悲しさと凛とした美しさ。

小谷氏が、小谷氏としてやろうとしているパブリックアートとして導きだした答えが
そこにはあった。
   
 


※次回の Reportage03-3 は、小谷氏の個展「SP2 NewBorn 」についてお送りいたします。
 
 


 

[Death roll in the air] 制作協力・・・上田謙氏(CGデザイナー)

 
小谷元彦
 
小谷元彦:
1972年京都府生まれ。97年東京芸術大学大学院美術研究科修了。
同年、東京・Pハウスにて初個展「ファントム・リム」開催。
99年にイタリアのサンドレッド財団でフューチャープラン賞を受賞。
00年リヨン・ピエンナーレ、01年イスタンブール・ビエンナーレなど国際展に次々と出展。
03年ヴェネツィア・ビエンナーレに日本代表アーティストとして参加。

>>http://yamamotogendai.org/japanese/artist/odani.html



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