スーツ姿のサラリーマンがビーチパラソルの下でパソコンとにらめっこをしている横で、原色の水着に身をつつんだギャル二人が浜辺に寝そべって日光浴をしている。
人工で作り上げたお台場の砂浜で次の撮影は始まった。あんなに曇り空だったのに、ゾレンがシャッターを切りはじめると、またたく間に太陽はその役目をこころえていたかのように顔を出しはじめた。自然と人物が織りなすコントラストがダイナミックな構図でカメラに押さえられて行く。ミノリはこのシチュエーションでの撮影を楽しみにしていたという。演出用の小物一つの色味ですら、ミノリは細かく調整する。だが、あくまで楽しんでチョイスしているよう。モデルが寝そべる時のポーズもミノリ自ら浜辺に横たわって実際にやってみせてみる。ああいう感じはどう?これもやってみよう、と、どんどんとシチュエーションが変化していく。
アチラコチラに移動して撮っているゾレンにあわせてスタッフ全員が写真に影が入らないように、砂浜を行ったり来たりする。サラリーマンはドルマークの眼鏡をかけて携帯で喋り、ギャルはサンバイザーやグラサンをとったりつけたり。
ユーモアたっぷりの写真が一通り撮れたところで、ゾレンとミノリはギャル達に海へ向かってほしいと告げる。ギャル達が歩き出した途端、手をつないで、とミノリのリクエストが飛ぶ。
それはインスピレーションの発する声だった。
小さな彼女達が子供のように手をつないで、大きな海へ向かって歩き出す。ゾレンがそのカットを押さえたところで、ここでの撮影は終了。モデルとスタッフを含めての、アーティストの遅い昼食時間となった。
驚いたのはきっちりと予定していたかのように、撮影が終了した途端に大雨が降り出したこと。撮影をしていてお天気で困った事はないの、と言うミノリは、まるでその天の恩恵をあらかじめ予期していたかのようだ。雨に濡れる砂浜をあとに、次は東京、いや、日本ならではのシチュエーションの場所へと移動する。
肉感的な身体に様々な衣装を身にまといつつ、可憐ではかない眼差しを投げかけるフェイクの美少女達。
ドールと呼ばれる彼女達は自ら動くことはない。スタッフは動かぬ彼女達をゾレンとミノリの指示にあわせて抱き上げては移動させる。
浜辺と違って照明器具とスタッフが入ればそれでもう一杯になってしまうショールームの部屋。ミノリはある種、無機質ともいえるこの部屋の空間を、フェイクの美少女と生身の美少女が絡み合う、独特で奇妙な世界観へと演出していく。同じようなランジェリーを着たモデルは一瞬でドール達の中に溶け込んでいく。それはフェイクとリアルの存在感のコントラストでありながらも、表面的造形の一致であり一体感であった。妖しくも美しく、そして無機質でありながらも生々しいという、混沌とした描写はまさしくゾレン&ミノリの真骨頂。それでも飽くなき表現の追求者である二人は次々に違うシチュエーションを築き上げていき、時間はあっというまに予定をオーバーしていった。
ようやく初日の撮影がすべて終わったころ、一度小降りになっていた雨は再び勢いを増して都会の夜を濡らしていた。もちろん、明日も朝早くからの撮影が予定されている。
to be continued.