Column
Photoshop world Reportage 01
  アーティストが作品を作るとはどういう事なのか。思考し、作り上げ、表現する。その姿を追ったドキュメント「Photoshop wrold Reportage」。今回のアーティストは異色の2人組アートユニット Zoren Gold & Minori。彼らの最新撮影現場にPhotoshop wroldは2日間にわたり同行した。  
  Zoren Gold & Minori + getty images[funky punky tokyo future]  
vol.3 Night-[Shinbashi]
     
 夜のバッティングセンターの場内には、カコーン、カコーンと小気味よい音が響いている。その中で、撮影がはじまろうとしていた。だがそこに、ここではストロボが使えないかも、という情報が入る。モデルはパンクなルックスの若いカップル。およそバッティングセンターに不似合いな二人の撮影は、これまたゾレンとミノリらしいチョイスだったが、屋内での撮影に不可欠なストロボが使えないとなると、撮影はかなり難しくなる。だが、なんとかスタッフの努力で小さめのストロボを使って撮影をはじめることができた。

 バッティングセンターは少し特異な場所だ。ゴルフのうちっぱなしというのなら、それは実践に基づく練習場であるだろうし、ボーリングというのならば、それはその場で楽しめるゲームという名のレクリエーションとなる。だがバッティングセンターはストレス解消という場がぴったりとくるものなのか、それとも自己と向き合うための場所か。勝負という場を提供する演出として、バッターボックス前には投手の姿が大きくスクリーンに映し出されている。あえてストイックなその場所に、ゾレンとミノリは思いっきりパンクな若者達を立たせる。スポーツと娯楽が同居する不思議な空間に、彼らは思いのほか違和感なくマッチした。コントラストの中にある面白さは共通する本質の何かがなければ成り立たない。パンクな精神を体現する彼らはスポーツの精神の場所でそのコントラストが浮き彫りになればなるほど、逆にお互いの存在を主張し合っていた。
 それこそがアーティストが狙う世界観だろう。

 次の場所は、轟音とともに電車がひっきりなしに行き来する新橋のガード下。サラリーマンが歩道を行き交い、狭い路地には気軽に立ち寄れる呑み屋が並んでいる。東京らしいといえばらしいこの場所が、この撮影最後のシチュエーションとなる。ここで現れるのはメッセンジャー。メタルな自転車に黄色いコスチュームとヘルメットというどこにでもいるはずの見慣れたアイコンが古い看板のかかるガード下に立つと、新橋という場所が明確に『東京』という世界になっていく。
 何気ないショットに見えるその中にこそ、ゾレンとミノリがとらえた『東京』があった。海外で出会い、海外で活躍し、そのクリエイションの場を『東京』に移した彼らは、その場所を客観的にとらえ、なおかつ自分達の主観での『東京』を演出してみせた。派手なグラフィック、アーティスティックなファンションや構図など、ゾレンとミノリらしいアートワークでの表現ではなく、キャラクターとシチュエーションのミックスによる、ストレートな表現。でも、それはやはりゾレンとミノリにしか作り上げることはできない世界観での『東京』だった。
 やがて夜の新橋に三味線が登場した。モデルが三味線のアーティストの二人組ユニットだったということで、夜のネオンに三味線の音が響く。ガード下、ネオン、三味線。マッチしすぎて、逆にスペシャルを感じる組み合わせ、さすがはゾレン&ミノリ。最後まで楽しませてくれるチョイス。

 二日間に及ぶ撮影がようやく終了。スタッフ達はお互いの労をねぎらう。疲れたか、という問いかけにソレンもミノリも首を振る。ハードだったけれど、エンジョイした、という答えに世界観の完成を迎えたアーティストの満足感があふれる。1000 カットを超える写真のセレクションをこれから行うという。

 二人のアーティストはパワフルに東京を駆け抜けて行った。

end.


 
 



 
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Zoren Gold & Minori  
ドイツ出身のゾレンと日本人のミノリによるアートユニット。
写真をベースにしながら、イラストレーション、コラージュ、グラフィックデザインを組み合わせた独自のビジュアルで、各界から注目を集めている。彼らを素晴らしい成功へと導いた 挑発的で奇想天外な作品の見事なコレクションが収録されている「Object that Dreams」を発売中。

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