Column
Photoshop world Reportage
     
  アラキミドリ [Abstract Truth]  
vol.2[美大生から編集者へ]
 
 
いろいろな知識に触れたかったから、
何も分からず飛び込んだ雑誌の世界。
でも、全部自分だけで作りたい、と思ったんです。

一青窈のベストアルバム「BESTYO」(2006)のジャケット作品。ジャケットとアーティスト写真のアートディレクションをアラキが手がけた。写真は新津保健秀。

Photoshopworld Staff(以下、PW)「卒業後、雑誌に進まれたのはなにかきっかけがあったんですか?」

アラキミドリ(以下、AM)「大学3年生のとき、某企業が学生に小雑誌を出版させるというプロジェクトをやっていて、その企画にしばらく係わっていました。そこで自分が会いたい人に会って、取材して、インタビューしてというのを体験したんです。全部自由に作ってよかったから、これはおいしい!と思ったんですね(笑)。この経験から美大で培ったアイデンティティとは違う表現方法を知り、もうひとつのトビラが開いたような気がしました。美大の学生が進む方向として、雑誌は“横道にそれていく”的なところがあったかもしれませんが、そのうち就職のためのマスコミセミナーに行ったりして、小論のテストとかを受けてましたね。3回くらい通いましたよ 。そういう変な空間にポッと投げ込まれて、“私、何してるんだろう、うわ?、論文書いてるよ?”と思いながらも楽しんでいるという、状況プレイだったのかな(笑)。ロールプレイングゲーム感覚というのか、選択肢として、意外なところを選んでいく傾向があるのかもしれない。もちろんいつ落とし穴に落ちるか、ドキドキしているんですけどね(笑)」

PW「デザイナーではなく、編集者を選ぶというのは、美大生ではめずらしそうですね」

AM「編集者がなんなのかもよく分からずに飛び込みましたから…。いろいろな知識に触れてみたかったというのもありますね」

PW「飛び込んでみて、どう感じましたか?」

AM「基本的に割り当てられた担当ページは、企画構成、取材、テキスト、ビジュアルの方向性など、わりと自分の思い通りに編集長がやらせてくれたので、そのまま描いたものがビジュアル化してページになっていました。写真とか自分でできないところだけをプロに頼む、というスタンスだったんです。だから学生時代に体験したことの延長という感じはありました。自分の世界観というか、作りたいものが作れる、言いたいことがページにできる、というおもしろさがありましたね」

PW「雑誌『装苑』、『ELLE DECO』を経験されたんですよね?」

AM「そうですね。『その人の居場所』という企画で自分が紹介したい人のインタビューをやったり、“温度と色の関係”とか“白ってなんだろう?”とか、そういうテーマで独自のスタイリングを提案することで、ジェネラルなインテリアスタイリングからイメージを変換して表現していたつもりです。インテリア雑誌の『ELLE DECO』で5、6年その方法を続けていくうちに、雑誌というメディアでの社会に対する自分のクリエーションというか、伝えたいことのバランスがとれるようになってきました」

PW「日本のインテリアに対しては、どういう見方をされていたんですか?」

AM「その頃の雑誌って、ヨーロピアン調とかなになに風のインテリアの紹介が主流だったんです。それが嘘っぽくておかしいな、と思ってましたね。“インテリア=環境”なので、それはお国柄やアイデンティティに密着しているものだと思うんです。日本はそういうものと関係なく、ただの“あこがれ主義”でヨーロピアン調とかなになに風がもてはやされていたので…」

PW「ライフスタイル誌『gap』では、編集長として立ち上げからやられていますね」

AM「1回自分の世界に集中しようと思って雑誌を辞めたんですが、ひょんなことから(笑)、編集長をやらせていただくことになったんです」

PW「編集長という立場はどうでしたか?」

AM「もちろんとてもオモシロイ仕事だとは思うんですが、編集長って学級委員みたいだな、と思いましたね。2年くらい続けたんですけど、私は学級委員にはなれないなと…。私、たぶん自分が知りたいことを知ったり、自分が言いたいことを絵や文字を使ってページを作りたいだけなんですよね」

PW「自分の作品を作りたくなってきた、ということでしょうか?」

AM「やっぱり全部自分でやりたいんだと思うんです。編集者は、経験を重ねることでどんどん良いものが作れるようになる、素敵なお仕事だと思います。物事を深く知り、人と協力してものを創り上げていく作業は、とても魅力的だとも思うんです。でも、私は全部自分でやりたいんですよね。やっぱ美大とか行ってる人って、自分だけの作品を作りたいんじゃないかな?だからもっと自分だけの世界観の方に行ってみようと思って、雑誌は辞めることにしました。そしてもう一度、原点に戻って、立体作品を用いてインスタレーションするという美術表現の枠に、自分の制作環境を見い出したかったんです」

     

雑誌『流行通信』での連載「A Little installation」にも登場していたネズミのオブジェ。

ストーンサークル化した自宅の中庭。
 
 
 
永戸鉄也
 
アラキミドリ:
1990年に多摩美術大学グラフィック科卒業後、雑誌『装苑』『ELL DECO』のスタイリングを兼ねた編集者として出版社に勤務。その後、1997年にライフスタイル誌『gap』を編集長として立ち上げる。1999年のインテリアデザインムーブメント『HAPPENING』を契機に、編集周辺から離れ、デザインとアートの境界線上で制作を開始。海外でのインテリアデザインイベントにも参加しはじめる。2002年秋から、フランス政府の文化奨学給付金を得て、パリとマルセイユのアーティストレジデンスに滞在。パリとドイツのカールスルーエで展覧会を開催する。2004年に帰国し、日本での活動を再開。現在、国内外での作品発表を続けると同時に、プロダクトデザインをはじめ、オブジェ、空間演出、映像インスタレーション、雑誌の企画連載、書籍出版、企業とのコラボレーションなど、多軸に表現の場を広げている。
>> www.arakimidori.com

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