プロダクトデザイン、オブジェ、空間演出、映像インスタレーション、書籍出版、etc。
ジャンルの垣根を越え幅広いフィールドで活躍する女性アーティスト、アラキミドリ。
多摩美を卒業後、編集者の道を選んだ彼女は、
『装苑』『ELLE DECO』の編集を経て、ライフスタイル誌『gap』の編集長として活躍する。
しかし、1999年のインテリアデザインムーブメント『HAPPENING』を契機に、
彼女は編集者からアーティストへと転身を遂げることを決意する。
「もっと、自分だけの世界観を作り上げるため」に。
よりパーソナルな創作活動へと向かっていったアラキは、
デザインとアートの境界線で、その眠れる才能を開花させていく。
今回は、アーティストへと転身したばかりの頃、体当たりで臨んだという作品制作や、 フランス滞在時の様子について、当時の話を聞いてみた。 |
はじめての立体制作では、
設計図なしの発砲スチロールの塊から、
「3日で彫刻する!」と豪語していましたね(笑)。 |

切株をモチーフに人類がはじめて座った椅子をデザインした『Stump』(2000年)。 |
Photoshopworld Staff(以下、PW)「雑誌の編集から離れ、アーティストとしてやっていこうと決意されたわけですが、何かきっかけはあったのですか?」
アラキミドリ(以下、AM)「“渡りに船”というか、ちょうどその頃に、ひょんなことからインテリアデザインをやらせていただく機会に恵まれまして…」
PW「1999年の『HAPPENING』展ですね?」
AM「そうです。編集者時代はインテリアを専門にやっていたのですが、その頃から、どうも日本では家具の道具としての良さや機能面ばかり重視されがちな気がしていたんです。いまはもう定番になってしまった、たとえばフィリップ・スタルクの作品ですが、ユーモアとコンセプトで形に収まっていてながら、きちんと家具としての機能も備えているんですね。だからこそ、いまの時代にデザインをやるなら、それ以上に言いたいことや新しいと思えることをインテリアで表現してみたい、と思って『HAPPENING』展に参加することにしたんです」
PW「当時は日本のインテリアやプロダクトデザインに、新しい動きが見られはじめた時期でしたね」
AM「もともとは、ヨーロッパのインテリアデザイナーたちの動きだったのですが、“もっと概念を壊したい”というのはありましたね」
PW「そして生まれたのが、シロクマのカタチをしたテーブル『Polar Bear』…」
AM「そうですね」
PW「この作品はどうして思いつかれたのですか?」
AM「公園に行くと、動物のカタチをしたオブジェのようなもの、ありますよね?あれって、彫刻でもないし、遊具でもないし、なんだか不思議だなと思ったんです。洗剤のボトルをモチーフにした照明
『BOTTLE LIGHT』もそうなんですが、そういう普段何気なく接しているモノの既成概念をEXCANGE〈変換〉してみようと思ったんですね」
PW「とはいえ、インテリアデザインやプロダクトデザインとなると、作品を作る環境や技術が必要になると思うのですが、そこら辺はどうされたのですか?」
AM「『Polar Bear』はまず型を作らなくてはならなかったので、取材で出会った人から、そういう技術のある工場を紹介してもらったんです。茨城県の田んぼの真ん中にあるような工場で、ユニットバスなんかを作っているところでした。たまたま工場の娘さんも多摩美だったみたいで、そういう縁もあり、場所と機材を全部貸してもらえることになったんです」
PW「そういう型を作るような制作は、経験があったのですか?」
AM「いえ、初めてです。設計図が描けないので、直接自分で原型つくることにしたんです。『3日で作る!』と豪語してました。実際は1週間かかったんですけど(笑)。毎日朝の8時くらいから、夜11時過ぎまでやってましたね。カエルがガーガー鳴いているようなところなので、電気を消すとホントに真っ暗なんですよ」
PW「具体的にはどんな作業なんですか?」
AM「3枚のモチーフ写真を見ながら、電気のこぎりで堅い発泡スチロールから原型になるクマを削り出していくんです。でも最初は顔の部分が長くなってしまい、クマじゃなくてアリクイになっちゃたりしてましたね(笑)」
PW「(笑)。初めての作業なのに、全部ひとりでやりきる自信はありましたか?」
AM「自分の能力がどこまで対応できるのか知りたい、という気持ちもあったんです。初めての環境に飛び込んで、集中してものを作るのは楽しかったですよ」 |