Column
Photoshop world Reportage
     
  アラキミドリ [Abstract Truth]  
vol.3[アーティストへの転身]
 
 
フランスに滞在していた時は、
人生で一番読書をしました。
“こもる”時期だったのかもしれませんね。

パリのアーティストレジデンスで制作した『Window』(2003年)

Photoshopworld Staff(以下、PW)「まさに体当たりで挑まれた初の立体制作。やってみてどうでしたか?」

アラキミドリ(以下、AM)「やっぱり創る楽しさを再確認しました。“何かとコンタクトしながら手を動かす自分”に気持ちが高揚するというか。あと、自分の世界観とインテリアとの関係が見えてきたという手応えはありましたね」

PW「クマのテーブルといい、洗剤ボトルのライトといい、選ばれるモチーフが独特ですね」

AM「立体のモチーフは、わりと自分の記憶の中にあるものなんです。出会ったものがどこかで気になっていて、それがだんだん自分のなかでカタチになってくるというか。切株をモチーフに人類がはじめて座った椅子をデザインした『Stump』は、その2、3年前から森が気になっていて、森に近づきはじめてたんですね。撮影でも森に入ったりとか。その時住んでいたアトリエからも木が見えて、枯れたり、葉がついたりするのを眺めながら、やっぱり気になるなあと思ってました。そういう気になっていたものたちが、ボケーっとしてると、ゆっくり浮かんでくる感じですね」

PW「その浮かんできたイメージを、どうやってカタチとして捉えているのですか?」

AM「立体はまず粘土で作るんですが、はじめの一日目は右往左往してます(笑)。どうしようどうしようと言いながらいながらも、そのうち自然と形に導かれていくように、手が動き出す。。仏像を彫り出している感じに近いかもしれませんね」

PW「なるほど。一方、フランス留学時には映像作品も作られていますね。これはまたインテリアとは違ったアプローチに思えるのですが、フランス滞在時のことについてお話を伺えますか?」

AM「フランスに行くことになったのも、これも“渡りに船”というか(笑)。フランスにピンときていた時期に、たまたまそういうアーティストレジデンスや奨学金の手続きの面倒を見てくださる方に知り合いまして…」

PW「フランスに行く流れが自然にできていたと…」

AM「誰かが手を差し伸べてくれるのを待っているのかな(笑)。でも、コンテンポラリーアートというのは常に自分の傍らにあったので、そこをひとりになって向き合ってみようかなあ、と。その状況をつくるのに、パリが好意的に近づいてきたので…」

PW「フランスではどんな生活だったんですか?」

AM「パリのアーティストレジデンスに滞在していたのですが、色んな国の人が住んでいたので、作家としてのアイデンティティーやアートとの関わりかたの違いを肌で感じることができましたね。たとえばチベットのアーティストとドイツのアーティストでは、在る意味、つくる意識に接点がまったくありませんでした。同じパリの下で同じ建物にいながら…」

PW「フランスでは『Window』という映像インスタレーションを展示されていますね。当初から映像を作ろうという思いはあったんですか?」

AM「漠然と求めるものを追求したいと思っていたので、映像になったのはたまたまです。フランスにいた時は、わりと色んなものを眺めていましたね。1年半の滞在だったんですが、自分にとっては“こもる時期”だったのかなと思います」

PW「“こもる”というと?」

AM「一番読書をした時期でもあったんですよ。みすず書房の本を日本から送ってもらったり、たまたま友だちが置いていった本を読んだり、仏教の本も読みましたね。ヨーロッパにいて、自分のアイデンティティを強く意識したのかもしれません」

PW「フランス滞在で得るものはありましたか?」

AW「自分が何をしたいのか、明確になりましたね」

PW 「編集者からアーティストへ、そしてフランス滞在と、大胆な動きというか、思い切った方向転換をされているように見えるのですが、そういう動きはご自身にどんな変化をもたらしましたか?」

AW「アートの世界は自分次第だから、編集者時代に比べて楽になったというのはあるんですが、私という存在は基本的に同じだと思うんです。あと、私は意外と自分から積極的に行くタイプではないのに、そういう動きをしているというのは、同じところにいるのがどこか不安なのかもしれませんね。なんか、浮遊している感じがいいのかもしれません(笑)」

     

洗剤のボトルをモチーフにした照明
『BOTTLE LIGHT』 (1999年)

アトリエの本棚。写真集、画集、絵本から宇宙の話まで。
 
 
 
アラキミドリ
 
アラキミドリ:
1990年に多摩美術大学グラフィック科卒業後、雑誌『装苑』『ELL DECO』のスタイリングを兼ねた編集者として出版社に勤務。その後、1997年にライフスタイル誌『gap』を編集長として立ち上げる。1999年のインテリアデザインムーブメント『HAPPENING』を契機に、編集周辺から離れ、デザインとアートの境界線上で制作を開始。海外でのインテリアデザインイベントにも参加しはじめる。2002年秋から、フランス政府の文化奨学給付金を得て、パリとマルセイユのアーティストレジデンスに滞在。パリとドイツのカールスルーエで展覧会を開催する。2004年に帰国し、日本での活動を再開。現在、国内外での作品発表を続けると同時に、プロダクトデザインをはじめ、オブジェ、空間演出、映像インスタレーション、雑誌の企画連載、書籍出版、企業とのコラボレーションなど、多軸に表現の場を広げている。
>> www.arakimidori.com

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