Photoshop world Column
ORGONIC ∞ GRAPHICERS #07
古屋蔵人: 編集デザインのNEW世代あらわる
テキスト・深沢慶太
−−DTP革命が増えすぎた市井の自己表現願望を広く"一般"に解き放って、すでに十余年。"業界"のまわりには、多数のワナビーが浮かんでは消えていく。人々は彼らをNEWタイプと見なし、"クリエイター"(造物主)と称揚しつつ消費していくのだった−−。

 

 

「80%? 冗談じゃありません。現状で性能は100%出せます」
「だが(出張校正時の)アゴアシが付いていない」
「そんなのは粉飾です。偉い人にはそれがわからんのですよ」
「使い方はさっきの説明でわかるが、Photoshopな、私に使えるか?」
「あなたのNEWタイプの能力は未知数です。保証できるわけありません」
「はっきり言う。気に入らんな」

……という自問自答があったかなかったか。
1995年、Photoshop(とイラレ)を手にした彼はその後、会社員としての仕事の傍らNendo graphicsを結成、90年代後半のグラフィックカルチャーを、テクノミュージックや電子玩具のブームと連動した形で先導していくことになる。
草野剛。Nendo graphixとしては、『Designplex』や『Gasbook』、『Quick Japan』といった雑誌への作品提供、伝説のテクノショップ『shop33』のTシャツやフリーペーパーなどを手掛け、前回登場の古屋蔵人(編集者)をしてグラフィックの「神」と言わしめた男。
彼のデザイン軌跡はまさにそれ自体が、DTP革命以降の日本のグラフィックとカルチャーの混淆の歴史なのである……!
そう断じようとしたところ、
「デザインの“新しさ”という意味では、自分はネヴィル・ブロディ、デヴィッド・カーソンらが切りひらいた流れに乗っているだけ」
と、淡々としている。
しかし、現在の草野剛デザイン事務所の近作を眺めても、
『交響詩篇エウレカセブン』『鉄コン筋クリート』などアニメ作品のロゴほかVIやDVD、サントラCDなどの商品パッケージ、阿部和重『ニッポンアニッポン』や本谷有希子『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』文庫版などの装丁、資生堂の広報誌『花椿』やフリーペーパー『dictionary』のアートディレクションと、広告代理店や制作プロダクションで研鑽を積んできたデザイナーとは異なる、カルチャーとの直結感が立ち薫る。


画像ソフトはあくまで道具、用いる者のイマジネーションこそ重要だ、という意見に対しても、
「先輩の説教に聞こえます。それより、機能そのものを楽しみたい。
 道具としての機能から生まれるアートワークも、面白さという意味では同じ」
と返答。
ソフトの使用法自体をゲーム感覚で拡張してきた、“DTP世代”ならではの重みを湛えた言葉である。

「画像処理環境の性能の違いが、戦力の決定的な差ではないということを……教えてやる!」
とは、オールドタイプ的視野狭窄の悲哀、はたまた遠吠えか。
彼は自身の脳力とツールとの“ハードワイヤード”な関係それ自体に対して日々、DIY的な創意工夫を重ねてきたのであり、それこそが常に革新的であり続けるための要訣なのだ。



かくしてビデオゲームやアニメーションなどのモチーフをデザインに取り込みエッジィに昇華させる手法の先達は、ほとばしるカルチャー知識を随時更新しながらグラフィックへとフィードバック、自らを絶えずヴァージョンアップさせることで、全身全脳をPhotoshop(とイラレ。あるいはCS)化し、まさに未知数にNEWなオールレンジ的快進撃を続けていくのであった。

 
草野剛(くさの・つよし)
1973年生まれ、東京都出身。株式会社アスキーを経て、有限会社草野剛デザイン事務所を設立。武蔵野美術大学非常勤講師。グラフィックデザイン全般の制作を行う。
www.kusano-design.com
 
深沢慶太
深沢慶太
1974年生まれ。編集者。「STUDIO VOICE」編集部を経てフリー。
NuméroTOKYO」誌や"伝説の前衛芸術家" 篠原有司男3部作の編集をはじめ、雑誌/web/書籍の編集+執筆、展覧会企画、アーティストコーディネートなども手がける。


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