Photoshop world Column
ORGONIC ∞ GRAPHICERS #07
古屋蔵人: 編集デザインのNEW世代あらわる
テキスト・深沢慶太
−−DTP革命が増えすぎた市井の自己表現願望を広く"一般"に解き放って、すでに十余年。"業界"のまわりには、多数のワナビーが浮かんでは消えていく。人々は彼らをNEWタイプと見なし、"クリエイター"(造物主)と称揚しつつ消費していくのだった−−。

 

LIVE PAINTING @ KDDI DESIGNING STUDIO (2006-06-09)

 
『2027』より。二階調的な質感を心掛けた。 STUDIO (2006-06-09)


レタッチと称した捏造。シズル感と称した偽装。Photoshopという強力な汎用機を手に入れた人類は、総人口の半分どころではなくほぼ全員を被搾取の状態へと至らしめた。にもかかわらず、“きれい”“おいしそう”“モテそう”という見た目の理由から、人々は自らの行為に喜悦した。

「いま、声が聞こえた! NEWなタイプは騙し合いの道具ではないって!」
「市場では強力な武器になる。やむを得んことだ」
「貴様だって、“クリエイティブ”だろうに!」

だが、新世代の時代が到来しつつあること、それもまた確かなことだった。彼らが表現行為に初めて触手を伸ばした時、すでにそこにはPhotoshopがあった。つまり、ハイエンドな機能を実装した最新鋭機がいきなり操作可能な状態で横たわっていたのである。
「こいつ……動くぞ!」

LIVE PAINTING @ KDDI DESIGNING STUDIO (2006-06-09)
『2027』より。コントラスト調節などが錯綜。
独自企画を数多く展開する編集者でありながら、デザインも手掛ける古屋蔵人。彼は、自らがPhotoshop世代であることを自認しつつ、そこからNEWな表現による革新が始まることを予め確信していたのだろう。
「『雑誌を作りたい』と思っていたが、文系の大学だったため独学で、必然的に編集とデザインの両方を手掛けるようになった」
そして誕生した『SIM magazine』だが、DTP以降世代のグラフィッカーたちの作品を満載し、稲葉英樹、草野剛らを“神”とリスペクトするその輝きは、まさにNEWなタイプを実感させた。ここから、彼はPhotoshopとともに成長していくことになるのである。

「最初のうちは振り回されてしまい、表現が“Photoshop的”になってしまっていたが、徐々にコントロールできるようになった。最新作の『2027』では、手描きのイラストのコントラスト調整やゴミ取り、あえて画像を劣化させたりしているケースが多いですね」

LIVE PAINTING @ KDDI DESIGNING STUDIO (2006-06-09)

『2027』(古屋蔵人×小田島等×黒川知希共著/ブルースインターアクションズ/¥1,900+税)

2027』。
稲葉、草野をはじめ、黒川知希、小田島等、井口弘史、ECD、宇川直宏、森本晃司、三田格、湯浅学ら、総勢30名以上がアートワークやコラムを寄稿、紙媒体が規制されるなどした20年後の世界をサブカル文脈で描き出す。
その、グラフィカルでありながら適度に弛緩した空気感は、Photoshopの性能を自らの万能感と錯誤しがちな思春期的心理を乗り越えて初めて到達可能な境地でもある。

「活動開始当初はDIY至上主義というか、編集執筆デザインすべてを自分でやりきることが重要だと思っていた。今ではチームでの作業のほうが楽しいし、クオリティを保つのに重要だと思っています。このかたちで数年後には『2027』の続編を作りたい。ネットに喰われずにいかにサヴァイヴできるかがテーマです」

LIVE PAINTING @ KDDI DESIGNING STUDIO (2006-06-09)
『2027』より。

NEWな感覚を共有できるからこそ、まだ帰れるところがある。現代的表現の根底にある承認欲求は、自己露出のみでは満たされまい。Photoshopは浅薄なブラフのためにあらず。コミュニケーションのためと心得よ。
かくしてNEWな世代はNEWな共感の絆を胸に、NEW気取りが渦巻くNEWSだらけのヴェニューを駆け抜け、真なるNEWヴィジョンを求めてこの資本NEW植地をサヴァイヴしていくのであった。

 
古屋蔵人(ふるや・くらんど)
1981年東京都生まれ。SAL magazine編集部を経て、庄野祐輔、藤田夏海らと編集デザイン事務所4D2Aを結成。編著書に『2027』(ブルースインターアクションズ)、『映像作家100人』(BNN新社)、『THE ALBUM(1st)』、『FREE STYLE SCRAPSシリーズ』(BNN新社)、『失敗しない大学デビュー』(飛鳥新社)など。
 
深沢慶太
深沢慶太
1974年生まれ。編集者。「STUDIO VOICE」編集部を経てフリー。
NuméroTOKYO」誌や"伝説の前衛芸術家" 篠原有司男3部作、田名網敬一の作品集『DAYDREAM』(グラフィック社)の編集をはじめ、雑誌/web/書籍の編集+執筆、展覧会企画、アーティストコーディネートなども手がける。


< Back  |4|  Next >

このページをブックマーク