Photoshop world Column
ORGONIC ∞ GRAPHICERS #12
川上 俊:グラフィック戦線を駆ける自由機動の俊英
テキスト・深沢慶太
−−DTP革命が増えすぎた市井の自己表現願望を広く“一般”に解き放って、すでに十余年。“業界”のまわりには、多数のワナビーが浮かんでは消えていく。人々は彼らをNEWタイプと見なし、“クリエイター”(造物主)と称揚しつつ消費していくのだった−−。


 

「CAPTAIN TACO」

 
ISSEY MIYAKE webサイトのアートディレクションおよびデザイン(2007年)。
Art Direction: Shun Kawakami (artless) Interactive Design: Keigo Anan (artless)
Interface Design: Kei Kawakami (artless) Flash Development: Syunya Hagiwara (flapper3)
Interface Development: Mahiro Komura (mizuyari) System Development: Daisuke Okazaki (dynalogue)
Sound Design: Yoshiteru Himuro (tngrm)

――終局である。彼我が生身で対決するなど、すでに競合プレゼンではない。NEWなタイプに科せられた宿命なのだろう。残されたホワイトスペースをアド覇or業苦の赤い炎が包んでいく。君は、生き延びることができるか?

「貴様がカラー補正の戦いに引き込んだんだ……!」
「しかし、競合がなければNEWなタイプへの目覚めはなかった」
「それは理屈だ」
「しかし、正しいものの見方だ」
「それ以上デザインが近づくと、共倒れだぞ」
「今、君のようなNEWなタイプは危険すぎる。私は君の色調を転ばす」


giulianoFujiwara 2008 S/S
Brand Logo: shun kawakami Website: art direction and design: shun kawakami flash: takagi (wildcard)
www.giulianofujiwara.com

そう、敵愾心を駆り立てるほどに彼はもはや手練として見逃せぬ存在に成長していた。
NEWなタイプ部隊として結成された「artless」を率いる若き俊英、その名も川上 俊。
ちょうど10年前、版下からDTPへの大きな移行期にあったグラフィックデザイン界の現場最前線で、彼はそのソフトに出会い、おそるおそる手を伸ばしたのだった。
Adobe Photoshop。資本主義の帝国によるコロニー(植民地)落としの戦いにおいて戦況を一変させたデファクトスタンダード的最新鋭テクノロジーであった。
ほぼ独学でそれを操るうちに彼は、グラフィック(G)戦線のただ中で、次第に人間としての成長を遂げていくことになる。

「(当時と現在を比較して)スタイルというよりは、意識が変わりました。
 自分に向き合うようになった。自分をどう見せたいとか、どうなりたいというよりも、
 自分とは何なのかを考えるようになりました」(川上 俊)

この内的なヴィジョンに対する目覚めこそ、彼のNEWな才能発現の要訣であった。
色数を絞り、ミニマルかつシンプルな日本的美意識のうちに高度な技量を注ぎ込むスタイルは、彼の内面性の変化を映し出したある種の軌跡と呼べるかもしれない。


WOW 10: art book
artdirection and design: shunkawakami
http://wow10.jp/

「人は変わってゆくのね。私達と同じように」
「そ、そうだよ。カラーの……トーンカーブの言う通りだ」
「本当に信じて?」
「し、信じるさ、き、君ともこうしてわかり合えたんだから。
 人はいつか字間さえ支配することができる」

このように、彼とGとの邂逅は必然にして神秘であった。
なぜGでなければならないのか? この問いに彼はこう答える。
「出会ったんです。
 グラフィックでなければ表現できないこと。それは、言語化できない雰囲気です」(川上 俊)

これぞ。これこそ、言語そしてOLDなタイプの理解の域を超えた、NEWなGコミュニケーションの真髄である。


Exhibition Poster: null* by artless
artwork and design: shun kawakami
photography: taisuke koyama

「そう、出し抜き合うばかりがNEWなタイプじゃないでしょ」
「そ、そうだな。どうすればいい?」
「ふふ、市場原理の禿とはいつでも遊べるから」

かくして彼は、クライアントワークとエキシビションユニット「null*」などの作家活動を自由意志で往復しつつ、受注産業の既成概念に縛られず闊達かつ目覚ましい活動を続けている。
特筆すべきは、脱領域的なオールレンジ展開のいずれにもブレが見受けられないこと。
これこそ、彼のGヴィジョンにおける揺るぎない帰着点の証左であろう。

「ごめんよ、まだ僕には帰れるところがあるんだ。こんなに嬉しいことはない。わかってくれるよね?」

Exhibition Produce / Space Design: null* by artless
art direction: shun kawakami
Exhibition Design: upsetters architects

――時に、Gオペレーションで表面を繕った偽装・不正規ばかりが横行する2007年。
NEWなタイプが騙し合いの手先に貶められ、貼り替え、まき直し、レタッチ超過、シズル感粒子散布など、人類はその大半が情報操作の翼賛下にある。
この戦いに、終わりはないのか。Gという名の解放戦線から放たれるNEWな革新に、将来のヴィジョンを託して本連載の結びとしたい。

 
川上 俊(artless)
1977年東京生。アートディレクター/デザイナー。artless Inc.代表。
アートワーク、グラフィックデザイン、アートディレクション、ブランディング、インタラクティブ、映像、インスタレーション、空間・環境造形などに加え、アーティスト活動も精力的に行う。NY ADC賞、グッドデザイン賞、東京インタラクティブアワード等、受賞多数。
www.artless.gr.jp
www.shunkawakami.jp
www.nullartless.com
 
深沢慶太
深沢慶太
1974年生まれ。編集者。「STUDIO VOICE」編集部を経てフリー。
NuméroTOKYO」誌や"伝説の前衛芸術家" 篠原有司男3部作、田名網敬一の作品集『DAYDREAM』(グラフィック社)の編集をはじめ、雑誌/web/書籍の編集+執筆、展覧会企画、アーティストコーディネートなども手がける。


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