Photoshop world Column
ORGONIC ∞ GRAPHICERS #07
Donny Grafiks:ヴィジュアル先行型サイコミュ・デザイナー
テキスト・深沢慶太
−−DTP革命が増えすぎた市井の自己表現願望を広く“一般”に解き放って、すでに十余年。“業界”のまわりには、多数のワナビーが浮かんでは消えていく。人々は彼らをNEWタイプと見なし、“クリエイター”(造物主)と称揚しつつ消費していくのだった−−。


 

プライベートワーク

 
(プライベートワーク)

「……ツールが違います! あのツールは自分は見ていません!」
「当たらなければどうということはない! 援護しろ!」

と、初見にして人を戦慄せしめたその威力を、誰もが手にするようになったという事実。
汎用機として開発されたそれは、かつて特権的職能のものとされ、厳然たる格差が存在していたグラフィック界の局面を一変させた。
「あれが……AdobeのPhotoshopの威力なのか!?」

しかし、だからこその慧眼と言うべきか。
デザインとは「当たらなければどうということはない!」ものなのだ。
核心に。要訣に。コミュニケーションの本質をずばり見抜き、的確な情報伝達を成す、これ図案の理なり。
が、そこに至るまでは死屍累々、競合やボツ案の骸を築き、
「悲しいけれど、これデザインなのよね」
と奥歯を噛みしめ、当てるまで当たるまで、ツールとともに修練に明け暮れる日々が待っている。

だが言おう。かかる苦行を重ねてこそ、たどり着ける境地がある。
座右の銘は、
「最小限の表現で最大限のコミュニケーションを!」
そのこころは、
「グラフィックデザインには、“言語”としての役割があると思っています。デザイナーの手を離れたデザインが単体でより多くのことを、多くの人々に正確に伝える必要がある。だからこそ、できるだけ多角的な視点から形や色などの持つ意味を吟味し尽くしたうえで、デザインにあたるよう心掛けています」

そう語るのは、ロゴタイプやピクトグラムなど、伝えるべき情報を力強く端的に集約しつつ、遊び心を加えたデザインで注目を集めるDonny Grafiks・山本和久。
自己愛に満ちた“表現”よりも、「ヴィジュアル先行型コミュニケーション」を。
露悪趣味的な“スタイル”よりも、「本当に必要なデザインのかたち」を。
結果、生み出される表象群は、単なる形態の遊戯を超え、伝わるべき文脈を豊富に湛えてその効果を発揮するのである。

 
『Happy Birthday』

excite DESIGNER'S PORTALのためのピクトグラム


「い、今わかった、NEWなタイプは、さ、消費しあうための道具じゃないって……!」
わかったか。ツールに踊らされることとは、自らもまた道具に堕することだと心得よ。
デザイン……それは言葉によらず、図像を用い、文化や言語、年齢の別を超え、よりユニバーサルに“わかりあう”ための、求道的思想なのだ。


エディトリアル全般を手がけた、
ビンタ本 ―IID世田谷ものづくり学校スクーリング・パッドの挑戦
幻冬舎メディアコンサルティング)表紙。

IID世田谷ものづくり学校にて、デザイン/飲食ビジネス/映画/農業の各学部を擁し、“生き方を学び続ける場”として注目を集める『スクーリング・パッド』の熱血講義録。この本および同校のサイトもDonny Grafiksのデザイン。

かくしてそのデザイナーは、殺伐とした消費社会の向こう、その脳力を以てツールを操り、果たすべきデザインの本質を求めて日々、人と人、意思と意思、心と心をつなぐサイコなコミュニケーター・ツールとしてのグラフィズムを追求していくのであった。

 
山本和久(やまもと・かずひさ)
1970年生まれ。多摩美術大学卒。フラミンゴ・スタジオを経て独立。
近作に、IID(世田谷ものづくり学校)のアートディレクションや exciteのデザイナーズポータル国立新美術館 のミュージアムショップSOUVENIR FROM TOKYO(SFT)での「FROM TOKYO」展、SFT×UTのTシャツプロジェクトへの参加など。
www.donnygrafiks.com
 
深沢慶太
深沢慶太
1974年生まれ。編集者。「STUDIO VOICE」編集部を経てフリー。
NuméroTOKYO」誌や"伝説の前衛芸術家" 篠原有司男3部作、田名網敬一の作品集『DAYDREAM』(グラフィック社)の編集をはじめ、雑誌/web/書籍の編集+執筆、展覧会企画、アーティストコーディネートなども手がける。


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