Photoshop world Column
ORGONIC ∞ GRAPHICERS #07
Donny Grafiks:ヴィジュアル先行型サイコミュ・デザイナー
テキスト・深沢慶太
−−DTP革命が増えすぎた市井の自己表現願望を広く“一般”に解き放って、すでに十余年。“業界”のまわりには、多数のワナビーが浮かんでは消えていく。人々は彼らをNEWタイプと見なし、“クリエイター”(造物主)と称揚しつつ消費していくのだった−−。


 

「CAPTAIN TACO」

 
「CAPTAIN TACO」 magic marker on canvas. 2005 - M.A.G.M.A EXHIBITION

かつて新世紀と呼ばれた2007年。
“業界”の市場戦略の下、社会政治経済すべてにおいて搾取の構図が私的空間にまで侵食を果たした現在、それら資本主義システムから最も遠いはずの場所“ベッドルーム”を拠点に、『WORDUP』を名乗り、独自展開を挑む結社組織が現れた。

「一握りの業界人気取りが、この地球を支配している。もはや我々の自由はベッドの上ですら踏みにじられようとしているのだ。
彼らは聖なるベッドルームを汚そうとしている。我々はいま、この怒りを結集し、“業界”に叩きつけて初めて真の勝利を得ることができる。
国民よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ国民!」

……意訳が過ぎたか。その首謀者の名は、MAGDRON。
オールドスクールな2連星DJスタイルで人気のエレクトロポッセ「M.A.G.M.A」として活動しながら、独自エレクトロ解釈のアートワークで知られる彼がいまなぜ、組織活動に踏み切ったのか。


「cycle of the erection」 printing magazine. 2006 - rtr

「ベッドルームとは、三大欲求〈クウ、ネル、アソヴ〉の中で最重要エレメントとされる〈睡眠欲〉そして〈性欲〉を満たす本能のサンクチュアリ。
それは自分という独裁者の絶対的価値観によって選ばれたモノたちを奔放に飾り立てることが許された、唯一のファシズム空間でもある」
(WORDUP presents『The ROYAL HOUSE EXHIBITION』宣言文より)

ずばり、グローバリゼーションの搾取圧政に追いつめられた人間の本能的欲求を最終拠点=寝室に結集、NEWなタイプの想像力=創造力によって活路を切りひらくマニフェストである。

 (「でも、なぜベッドルームに着目したんですか」
  「……そうね、消費という破壊の中でただひとつ、
   モノを創っていくことができるから、かしらね……」)


「BARBARIAN Folkcraft」 mixed media. 2005 - MONICA x SWAROVSKI

こんな感じで、その背景に憧れの異性とのセクシャルな原体験があったかどうか、は知らない。
だが確実なのは、それまで特権的職能のものとされてきた画像処理技術を広く一般に“解放”した傑作汎用機のPhotoshop、その独自の運用戦術である。

(自分にとってPhotoshopとは)
「ミキサー。素描や写真、なんでもスキャンしてMIX」(MAGDRON)

すなわち。その性能は、予め思い描いた図像を完成させるためにあるのではない。
己の内なる能力を増幅させる媒介として、研ぎ澄ませた感覚野をブーストし、あらゆる事象への共鳴を図るという、クラブカルチャーの現場で培った実戦手法が、予測不可能な機動攻撃を可能たらしめていたのだ。


「KITTY meets ROY.03」2006 - HELLO KITTY SECRET HOUSE

「で、でもこのスピードでイケるコンテンツなんてありはしません!」
「伝達速度が違う。絵は一瞬でイメージを伝達し、時間が経つにつれて脳内で増幅していくことができる」(MAGDRON)
この共感的ヴィジョンこそ、“クリエイター”(和製英語で造物主の意)なる虚飾を超え、真にNEWな革新を実現していくための最大の武器なのだ。

その彼の呼びかけに共鳴した、米原康正、三嶋章義(エンライトメント/FUGAHUM)、Nicholas Taylor(DJ High Priest/Death Comet Crew)、ジェリー鵜飼(ADS)、梅川良満、clatic(ten_do_ten+jung-jung)、河村康輔(ZAIDE)ら十数名のアーティストたちが結集し、世界初のベッドルームアートエキシビション『The ROYAL HOUSE』を開催。
“秘密結社的マスアピールブランド”『WORDUP』の旗印のもと、アート作品はもちろん、アパレル、プロダクト、武器(民芸品)など、己の理想の牙城へとベッドルームを武装強化する解放戦線を宣言するという……!

WORDUP presents「The ROYAL HOUSE EXHIBITION」メインヴィジュアル

「我が忠勇なる男たちよ。決定的なハイプに陥った“業界”は、すでに形骸である。あえて言おう、カスであると!
それら軟弱の集団が我らがナイトライフをヌくことはできないと私は断言する……!」

かくしてそのURBAN WARRIORは、HYPE化したPLANET ROCKにBOOGIEなSPECTACULAR BOMB落としを敢行し、SOUL(魂)をSONIC FORCE(重力)に引かれてトべないPARTY PEOPLEにROCK ON、夢見空間をBETWEEN THE SHEETSからSTUPID FRESHにWORDUP、MASS APPEALなSTYLE WARSをBLING-BLINGにさりげなくPUMP UP THE VOLUMEしていくのであった。

 
MAGDRON(M.A.G.M.A)
マグドロン。1999年からエレクトロ解釈でアート活動を開始、国内外の企画エキシビションに参加。
2005年にはART、VISUAL、MUSICをキーワードに3会場連動の初個展「M.A.G.M.A EXHIBITION 」を開催。2007年、ベッドルームアート展覧会「The ROYAL HOUSE exhibition」を10/28〜11/4にかけて開催する。
www.the-royalhouse.com
 
深沢慶太
深沢慶太
1974年生まれ。編集者。「STUDIO VOICE」編集部を経てフリー。
NuméroTOKYO」誌や"伝説の前衛芸術家" 篠原有司男3部作、田名網敬一の作品集『DAYDREAM』(グラフィック社)の編集をはじめ、雑誌/web/書籍の編集+執筆、展覧会企画、アーティストコーディネートなども手がける。


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