Photoshop world Column
GLOBAL WORK Vol.9
優秀なレタッチャーとの仕事術
テキスト・木之村美穂

最近私が見かけた広告の中で、とても印象的だったのがこのポスター。
 
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キャッチコピーは「すべての犬よ、立ち上がれ」。いったい何の広告なのかな?と気になっていました。そこで、企画を担当したPublicisの荒尾さんと橋本さんに、犬たちのポーズをどうやって撮影しているのか?どこをレタッチ合成しているのか?などなど、お話を聞いてみることにしました。
「クライアントは、犬専用の関節症用消炎鎮痛薬(関節の痛みを止めるお薬)を作っているメリアル・ジャパンという会社です。犬たちが立ち上がっているポーズには、(関節の)痛みから立ち上がる” という意図を込めました。」

まずこのアイディアを実現するために、世界中の動物が得意で優秀なレタッチャーをリサーチしたそうです。そこで目に留まったのが今回のレタッチャー、イネス(InnessRobins)でした。イネスが所属する「Electric Art(www.electricart.com.au)」は、車や化粧品、食品などの仕事を幅広く手掛ける、オーストラリアのシドニーにあるレタッチや3D 専門のプロダクション。その中でも特に「WELLINGTON ZOO(www.wellingtonzoo.com)」の広告で動物のレタッチを自然に作り出していたのがイネスだったので、この仕事を依頼したそうです。

今回の重要なポイントは、いかに犬たちが“ 自然” に見えるか。実際に犬を撮影し、パーツごとに合成されていますが、1 匹だけ本当に立ち上がっている犬が入っています。でもどの犬なのか、何回見てもわからないくらい自然な仕上がりです。「優秀なレタッチャーほど、その技は見えない」とは荒尾さんの弁。

苦労した点は、オーストリラリア側であまりにも沢山の犬のオーディションをしてくれたので、最終選考にどの犬を残すか、選ぶのが大変だったこと。よく見ると、キャスティングのバランスにとてもこだわっているのがわかりますね。

日本とオーストラリアとのやり取りはすべてe-mail だったので、なるべくシンプルに指示を出し、相手のセンスに任せ、やりとりを進めたそうです。レタッチャーだけに限りませんが、仕事が優秀な人はセンスも良く、わかっているクリエイター同士のやり取りはシンプルで早い。特にレタッチャーとの仕事は、お互いに信頼し合えるかどうかで、作品のクオリティが変わってくるのではないでしょうか。

今回のメリアル・ジャパンのポスターは荒尾さんの意図通り、自然で、ちょっとユーモアのある 作品に仕上がっていると思いました。皆さんはどう思いますか?

ちなみに私のお気に入りの子は、右から3 番目のチワワと8 番目の黒いブルドック。腕組みの姿がけっこう好きかも。
 
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STAFF LIST
Client:MERIAL JAPAN
Creative Director:荒尾犬帥( Publicis)
Art Director:橋本真(PUBLICIS)
Copy:武井慶茂(PUBLICIS)
Designer:服部妙子
Production Company:Electoric Art
Producer:Yvonne Moxham
Retoucher:Inness Robins
 
木之村美穂
STUDIO D.O.G.INC(www.studiodoginc.com)代表。Los Angeles をベースに、クリエィティブディレクター/フィルムディレクターとして、David Lachapelle、Ellen Von Unwerth など、世界的に有名なファッションフォトグラファーとの仕事を多数手掛ける。資生堂、PARCO、SWAROVSKI などの広告で活躍中。

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