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> グラフィックアートの地平:#09
皆さんは「ストリートアート」という表現の存在をご存知だろうか。一般的に、ストリートアートとは、グラフィティなどの黒人カルチャーから派生した文字通りストリート(路上や公的スペース)における表現と解釈されている。過去には、バスキア(01)やキース・ヘリングというスターを生んだストリートアートだが、その表現行為自体が「違法」性を伴うことが多いが故に、その存在は必ずしも社会から歓迎を受けるものではない。
(01) Jean-Michel Basquiat「untitled」
実際に、犯罪行為に身を投じてまでストリートで表現しなければいけない表現上の理由や動機(元来、こうした表現は、キャンバスを買うお金も作品を発表する場もなかった人々によって広まった)に裏付けられた、真のストリートアートの存在は、現代の、特に先進国社会にいては皆無に等しい。
しかし、ここ数年ニューヨークのブルックリン地区を中心として、新しい“ ストリート” の形が生まれ始めている。この新しいムーヴメントは、あらゆるクリエイティヴのジャンル(音楽、ファッション、デザイン、写真、グラフィックアート、グラフィティなど)と融合した新しい表現の波である。既にここには、そうした既成のアートの在り方に満足しない数多くの表現者たちを扱うギャラリーが何十件も軒を連ねている。ここに表現の場を求める多国籍なアーティストたちにとっての“ ストリート” とは、ファッションやデザインなど、より日常的に接する機会の多いクリエイティヴを意味する「ストリート感覚」のことであり、そうした、より庶民的な感覚こそが、彼ら新しい表現者たちにとって居心地が良いものなのである(02、03)。
(02)Art Work By Paper Rad
ブルックリンで今最も著名なストリートアーティスト、PaperRad。音楽、アニメーション、グラフィック、ペインティング、立体と既存の枠に収まらないオールジャンルな作品を展開し、高い人気を誇る。
はたして、この現象は、進化系芸術の台頭を意味するものなのか? あるいは、さらなる大衆化へのステップなのか? はたまた、意図的な低俗化なのか?
彼らの活動について、少なくとも言えることは、ここにいる表現者の多くは、例え経済的な成功を勝ち得ていなくとも、既存のアートシーンに属する誰よりも、自由に、そして活発に、自らの表現を謳っているということである。事実、彼らはギャラリーや、批評家、キュレーターや、あるいはコレクターといったファインアートの権威を形成している世界とは無縁であり、それが故に、穢れなき表現の自由を勝ち取っている。そもそも、19世紀後半以降に始まった現代芸術の前衛とは、特定の手法や方法論といっ たルールから離脱し、自由で独創的な表現が築いた価値である。
彼らの多くが同時代に高い評価を勝ち得なかったという事実を顧みれば、ストリートのニューウェーブたちが求める「自由への逃避」は、20 世紀モダニズム以降の混沌としたアートシーンにおいて、新たな可能性を提示するものなのかもしれない。
少なくとも、ここには若者を中心とした数多くの“ 普段着” の人々が集っており、おそらくその先には、これまでアートと疎遠であった無数の人々が待ち構えている。だとすれば、21 世紀の現代社会において、アートと社会を結ぶ重要な一側面を担うのは、今ここに蠢いているアート界の異端児たちなのかもしれない。
(03)Art Work by ROSTARR
・ブルックリンのギャラリー情報サイト
『Williamsburg Gallery Association』
www.williamsburggalleryassociation.com
NANZUKA( NANZUKA UNDERGROUND)
1978 年東京生まれ。早稲田大学第一文学部美術史学専修卒、早稲田大学文学研究科美術史学専攻修士課程満期退学。 2005 年現代美術ギャラリーNANZUKA UNDERGROUND 設立。
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