Column
Photoshop world Reportage
     
  アラキミドリ [Abstract Truth]  
vol.1 [“自分遊び”という実験]
 
 
『今日これを見ることができてよかった』と思う。
どう感じてもいいけれど、そんな目に見えない作用が
起こればいいなと思っています。
(左、右上)「作品にするかどうか分からないけれど、なんとなく作ってみた」という制作途中のオブジェ。「同じものを何個も作ってしまうのって、ちょっと観念的になっている証拠かな?あと、ニンニクっぽいですよね(笑)」。机に散らばっていた釣り針について尋ねると、
「釣り針が気になるんです。だから何らかのかたちで使うことになりそう」とのこと。
(右下)オブジェのスケッチ。「布の中からかたちが浮き上がっているようなイメージなんですが…。まだどうなるか分かりませんね」
Photoshopworld Staff(以下、PW)「個人的な感想なので、もちろん全ての作品にいえることではないのですが、アラキさんの作品は、オブジェだけではなくそこに言葉が付けられていることで、“分かりやすくストーリーや世界観を受けとることができる”という印象がありました。なので、今回の“分かりにくいもの”という方向性には、ちょっと意外な感じを受けたのですが…」

アラキミドリ(以下、AM)「分かりやすくしようとしているわけではなくて、突き詰めた結果、それが分かりやすくなった、ということだと思います。オブジェや照明の制作はずっと続けていこうと思っていますが、同じことをコンスタントにやるというよりは、いまチェンジの時期にきている、というのは感じます。個人的に作るものとじっくり向き合いたいというか、より自分に対して真摯になりたい。作品の伝わり方は人それぞれ違いますが、自分のような人間が存在している、ということが伝わればいいなと思っています。分かりやすいものにどこかで辟易しているし、分かりにくいものに興味を持ってくれる人がいる、というのが嬉しいですね」

PW「なるほど」

AM「こういうのって、ステレオタイプに対するアンチかもしれませんね。分かったようにしている感じがつまらなくて、あえて分かりづらくしたくなるのかも。でも、なんだかわけの分からなくても『今日これを見ることができてよかった』と思うものってあると思うんです。それってすごいことだと思うし、だから私は作品を作るのかもしれない。見る人が作品をどう感じてもいいけれど、目に見えない作用が起こればいいなと思っています」

PW「ますますなにができるのか、楽しみになってきました(笑)」

AM「仕事で手掛けるデザインというのは公共性のあるものなので、はじめからコミュニケーションツールとして突き詰める部分があります。でも今回のように自由にできる機会があるのなら、私は自分が何を知りたいのかを知りたいし、“自分遊び”のほうが興味があるんです。そこに“人に見せる”という要素はどうやってもプラスすることになりますが、降りてきた喜びと、それが消えないうちに集中に入り、ものを作る、なによりもこの喜びが勝りますね」

PW「今日はありがとうございました。何ができるか、楽しみに待ちたいと思います!」
     
アラキさんの仕事部屋。置いてあるのは「天井に浮かぶさまざまな想像をモチーフにした」という照明『PHANTOM LIGHT』。日本の照明器具メーカー、マックスレイから発売中。
 
 
 
永戸鉄也
 
アラキミドリ:
1990年に多摩美術大学グラフィック科卒業後、雑誌『装苑』『ELL DECO』のスタイリングを兼ねた編集者として出版社に勤務。その後、1997年にライフスタイル誌『gap』を編集長として立ち上げる。1999年のインテリアデザインムーブメント『HAPPENING』を契機に、編集周辺から離れ、デザインとアートの境界線上で制作を開始。海外でのインテリアデザインイベントにも参加しはじめる。2002年秋から、フランス政府の文化奨学給付金を得て、パリとマルセイユのアーティストレジデンスに滞在。パリとドイツのカールスルーエで展覧会を開催する。2004年に帰国し、日本での活動を再開。現在、国内外での作品発表を続けると同時に、プロダクトデザインをはじめ、オブジェ、空間演出、映像インスタレーション、雑誌の企画連載、書籍出版、企業とのコラボレーションなど、多軸に表現の場を広げている。

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