また80年代には、幾つかの複数の魚眼レンズを用いたワンショットカメラのような物が登場しました。これらは、使用されたレンズがNikon社の製品が主であった事から、Nikon
Fカメラを母体にした物が多いです。民生用の比較的単純な物では、2台のカメラを背中合わせにして6mmの魚眼レンズを双方に装着し、モータドライブを使用して同時に撮影をするもの(図
3等)があります。民生用途で360度同時に撮影できるもの中では、最も高い画質が得られたようです。さらに、政府、特に軍関連に限って言えば、全方位パノラマでの撮影は写真の歴史と共にある最古の欲求です。この方面での研究は、民生用のものに比べると随分と進んでいました。
民生用の物も含めたこれらの特殊機材は、魚眼レンズで2〜3枚のショットを重ねる処理である、デジタル撮影技術の母体になったと言われています。しかしながら、この魚眼レンズを用いる分野は、光学兵器利用が主体で開発が進められたためか、特許等が複雑で、随分面倒な、各種の特許の有効性裁判の火種にもなりました。そのため、多くの写真家にとって、忌避すべき分野になってしまったことは残念です。
後ほど、対角角度170〜180度の魚眼レンズを用いた、少数ショットについても触れましょう。また、魚眼レンズのTipsを書く時に、詳しくその扱い方にも触れていきたいと思います。
ワンショット:お国の事情
さて、魚眼レンズを用いてワンショットで撮る方法は、第二次大戦、冷戦中に軍需、学術用途用に非常に進歩した光学技術の一つですが、欠点は、魚眼レンズの価格が得られる画質に対して、随分と高価だったことです。魚眼レンズは、本来、海上の軍艦や気象観測船のような、足下が揺れるために一瞬で空を撮らなければならない、スキャン方式やセグメント方式でのパノラマ撮影が不可能なところに需要がありました。また、冷戦中は偵察機の搭載カメラのような、これまた一瞬で地上全景を撮影する必要のある光学機器など、民生の他で使用される目的で発展しました。
これらの機材を用いた、地上でのワンショット撮影のコンスタントな需要のひとつに、民生のパノラマ撮影も含まれていた理由に欧米のお国の事情があります。今は昔ほど厳しくありませんが、昔、欧米の公の場所で三脚を使って撮影することは厳しく取り締まられていました。パリ市やニューヨーク市などの大都市部では、撮影その物への規制もありますが、田舎の方の非常に古い歴史のある法律で三脚その物を規制している事もあったのです。それらの法律の多くは、元々三脚が銃脚から派生した事にルーツがあり、三脚を許可無く使用する事を規制するようになった始まりだと言われています。