【Photoshop for Photograph】
写真加工テクニック編 撮影テクニック編

撮影テクニック編
Photoshopで出来る簡単なパノラマ 「中編 2」
稲垣 英徳

Photoshopで出来る簡単なパノラマ(中編1)では、セグメント方式について触れました。

写真 1
【写真 1】
現在では、セグメント方式はスキャン方式に次いで画質が高いのが利点です。

今回はいよいよ、簡易性の為から低予算プロジェクトで一番ポピュラーと言えるワンショット、及び少数ショットのパノラマについて触れていきます。まずはワンショット撮影とはどの様な物か?という所から始めていきましょう。

写真 2 【写真 2】
典型的なワンショットパノラマの展開前の画像

ワンショットの歴史:魚眼

さて、ワンショット撮影について述べるためには、まず魚眼レンズについて述べなければならないでしょう。魚眼レンズとは、R.W.Woodが1911年に出版した光学理論の本で名付けたもので、この13年後の1924年(特許申請は1925年、光学理論の書籍は1926年頃)にR.Hill Whole Sky LensがイギリスのBeckから発売されたものが実用化された最初の魚眼レンズとされています。

【図 1】
カーブの緩急、コートの種類、レンズの硝子材質等に、メーカ毎の工夫がありますが、魚眼レンズのフロントレンズの基本的なデザインは、最初のSkylensからあまり変わっていません。

図 1
詳しいレンズの構成は述べませんが、特許等、既に失効していますので興味のある方は、英国特許番号225398で調べると構造等や、現在に至るまでのデザインに与えた影響の大きさがわかって面白いでしょう。また、魚眼レンズの各種特許は今でも頻繁に最新の物が申請、認可されていますので、米国のPatent Officeのデータベースなどを検索すると最新の魚眼レンズデザインに関する特許等も閲覧出来ます。光学等に興味のあるカメラマンや、デザイナーの方々には一見の価値があるでしょう。

さて、このSkylensという物は、実は軍用(正確には海軍などの天体、気象観測用)の物が主で、あまり民生向けに製造されませんでした。そのため、残念ながら現存する当初のレンズは非常に少ないと言われています。しかし、その基本的な構造は後の多くの魚眼レンズに受け継がれています。

海運国であり、気象研究が相当進んでいた戦前の日本もまた、魚眼レンズ等の開発等には熱心でした。そのため、太平洋戦争の直前の1938年、当時の日本光學工業(現在のNIKON)が海軍用の光学兵器、測量兵器の国産化開発の一環として、魚眼レンズを製品化しています。Nikon社の社史によれば、16mm F8という物だったそうですから、かなり暗いレンズだと思われますが、海軍用の魚眼レンズによる多くの撮影が船のマストなどから、天頂に魚眼レンズを向けて空を撮影するものであった事を考えると、日中、洋上においてはF8という暗さで十分だったのでしょう。

民生の魚眼レンズの歴史においては、1960年代に大きな転機を迎え、各種のデザイン、特に非球面レンズを用いた魚眼レンズが開発されました。特にNikon社からはFisheye-Nikkor 6mm(f5.6、f2.8のバージョンは70年代に登場)が発売されます。これらは数少ない画角220度を有したレンズであり、現在は残念ながら入手が困難な物ですが、ワンショット全天撮影、及びパノラマ撮影においては大きな影響を与えました。

図 2

【図 2】
画角220度の場合、一枚で屋内の部屋のような環境でも比較的簡単に360度のパノラマが作れます。最近多い180度の魚眼や、185度のアダプターでも一応は出来ますが、インドアのような手狭な所では、ワンショットで済ませることは難しいです。
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  稲垣 英徳   2007.06.14