つないでパノラマ写真を構成する手法は、写真の歴史と共にあると言われ、少なくとも19世紀半ばのダゲレオタイプ(銀版)の写真が実用化された頃には存在していました。
現代のカメラで言うと、F18相当前後のレンズで露出された当時の銀板の感光性能は大変低く、それこそカメラマンの銀の磨き上げ方、薬品の調合、塗り方次第によっても左右されたと言われますが、ASA値で1〜3程度の感度だった為、当初は動かない物を撮るのに適していた事も風景写真が多く撮られた理由でしょう。
現存する多くの最古のパノラマ写真達は、このダゲレオタイプの写真を繋ぎ合わせた物でした。このダゲレオタイプの写真とは、つまるところポジ露出された銀メッキ版であり、これを横にただ並べて見せた物が最初のプロカメラマンによるパノラマ写真だったと言われます。何か、ポラやプリントを張り合わせた物や、今のデジタルカメラでのパノラマ作りに近いですね。
このアプローチをセグメント方式と呼び、この方法が現在知られている写真技術の中では最古のパノラマの作成方法と言われています。しかしながら、当初盛んだったこのダゲレオタイプを用いた方法の最大の欠点は、ポジ一枚きりと言う事でした。風景写真と高価な肖像写真に多く用いられたこの方法は、一時は大変な人気があり、世界最古のステレオ写真(立体のヌード写真だそうです)はこのカメラを用いて撮影されました。ステレオ写真についてはのちほど触れましょう。勿論、米国のリンカーン大統領などを始めとする19世紀半ばの著名人の肖像撮影にも活躍したのがこのダゲレオタイプです。
しかしながら19世紀の後半に入り、より安価なガラス板でネガを作るコロジオン法の発明、安価なカロタイプなどに見られる印画紙とフィルムの発明(画質は落ちますが)、及び19世紀末のロールフィルムの発明により、この銀版を用いたカメラは一部の趣味的な用途を除いて姿を消します。ポジ一枚一枚が、高価な銀食器のプレートみたいな物ですし、現像には水銀蒸気を使うなど、それなりに危険な物だったことから、一枚辺りのコストが大変高かったため、当然と言えば当然だったかも知れませんね。